[ローカルに生きる人たちを写真でつなぐ Mc101]

ライブ写真撮影に関するあれこれ

Twitterで色々呟いてたら、まとめのご要望を頂いたのでまとめます。

背景

一般的に「ライブ・コンサート = 撮影禁止」というイメージがあるかと思います。その理由は他のお客さんに迷惑だから、ということだけでなく、出演者が集中できなくなるから、また、肖像権の保護、といった背景もあります。お客さんに対して「撮影禁止」を掲げている演者さんの場合、写真・映像が必要な場合、専門のカメラマンに依頼することが多いようです。

しかし、特に事務所などに所属せず活動されている演者さんの場合、敢えてお客さんに撮影を許可し、データを提供してもらうなどしてブログに使用等するケースもあります。費用面のメリットもありますが、それを上回るメリットも多々あるようです。このように、我々観客がライブ撮影をさせてもらうにあたって、考えなければならないことをまとめてみたいと思います。

なぜライブ写真を撮るのか~演者さんにメリットのある撮影でなければ意味がない

「そもそも論」から始めます。なぜライブ写真を撮るのでしょうか。「○○ちゃんのライブ行ったぜうぇ~い」みたいな感じでしょうか。ライブの様子を撮ってSNSやブログに上げる、という行為は、知名度が上がることを望んでいる演者さんにとってみれば、メリットに感じてくれる人も一部にはいらっしゃるかもしれません。しかし、それを望んでいない人もいます。

私の場合は、撮った写真を演者さんに何らかの形で提供し、それを喜んでもらうことが自分にとっても喜びと思っています。そこにコミュニケーションが生まれるからです。逆に、演者さんの喜びなくして自分の喜びはあり得ません。つまり、演者さんの望まない撮影はあり得ない、ということです。

まずは、自分自身に問うてください。自分の撮影は、演者さんが喜ぶ撮影なのか。自己満足になっていないか。この後のお話は、その答えが出ていることが前提で進めていきます。ただ、自分がその演者さんが好きだから、だけでは答えになっていません。

許可を得る、という手続き

基本的にライブ写真の撮影は、演者さんと、会場を管理する人の双方から合意が得られていることが前提です。なので、私はライブハウスでのライブで観客の立場として写真を撮らせてもらう場合、まず、予約の時に、まず演者さんご本人の承諾、そして、演者さんを通じて、会場の担当の方に「河野という客が写真を撮りたいと言っている」旨を伝えて頂くよう、お願いします。そうすると大抵の場合、演者さんは予約リストの自分の名前の横に「撮影希望」とか「写真撮ります」とか書いてくれます。それを見て、会場によっては撮影パスを出してくれます。

たまに例外があります。仙台市で毎年9月に行われる「定禅寺ストリートジャズフェスティバルin仙台」は基本的に野外イベントということもあり、写真コンテストが行われるなど、写真撮影はイベント全体として歓迎されているようです。(もっとも、演者さん一人一人の気持ちというのも当然あるわけで、変に演者さんに近づいたりとか、度を過ぎた態度は禁物ですし、ここで述べさせて頂いているような基本的なマナーは守るべきです。)

(2020年5月31日追記)あと、小規模な会場で、演者さんもお客さんもほぼ毎回固定で完全に信頼関係が築けていて、撮影することも暗黙の了解を得られている場合も例外と言えば例外ですが、このようなケースはよっぽど恵まれているケースですし、その会場・演者さんに対してそれだけの場数を重ねていることが前提になると考えてください。

(演者さん向け)お客さんへの周知の仕方

演者さんの立場からすると、どのようにお客さんに周知すればよいのか、も気になるところだと思います。皆さんそれぞれの考え方もあるかとは思いますが、例えば、

ライブでの写真撮影を希望される方は予約時など、事前にご連絡ください。くれぐれも会場の指示に従い、後ろの方で撮影するなどマナーを守った撮影をお願いします。(以下任意)但し、撮影した写真をブログやSNS等、ネットに公開することはご遠慮ください。

くらいが妥当かと思います。

より厳しめの表現をするならば、

ライブでの写真撮影は原則としてご遠慮頂いています。但し、私の音楽活動にご協力頂く目的で撮影して頂ける場合は予約時など、事前にご連絡頂けると幸いです。

という書き方もあるかと思います。

どこにも何も書かない、という選択肢もあります。それで済むならそれがベストだからです。

どこで撮るか

他のお客さんの邪魔をしないこと、が基本です。

座席のある会場の場合

原則、座席からの撮影はするべきではありません。液晶が目障りになる、前後左右が近い場合、撮影のために手を動かす行為自体が迷惑になる恐れがあります。

基本は「後ろから」です。イス席の後ろに立ち席スペースがある場合は、イス席最後列の後ろがいいでしょう。

たまに、凹凸のある会場で、一番後ろではないけれども後ろが壁、というスペースを確保できたりします。焦点距離を延ばさずに、かつ、他のお客さんに迷惑をかけずに撮影できる場所です。基本、先着順ですので早めに会場に行くことが必要ですが、このような場所は是非活用しましょう。

オールスタンディングの会場の場合

客席とステージの高低差があれば、例えば一番後ろでも踏み台で高さを稼ぐ方法が使えます。

そうではない場合、演者さんがお客さんに塞がれて見えなくなってしまいます。この場合はやむを得ず最前列に構えるか、横にスペースが確保できる場合は前方横の壁際に踏み台を置く、などの方法が考えられます。

女性の演者さんを(特に男性が)撮影する場合の注意

経験上、女性の演者さんを下から撮ると写りが良くありません。多くは語りませんが、想像してみてください。客席の椅子から撮影するべきではないもう一つの理由でもあります。

これがなぜか、女性が女性を撮影すると平気だったりします。

「高さ」を稼げる場所

めったにないですが、2階席のある会場は有効に活用しましょう。階段からステージを展望できる会場も有効ですが、階段は通路としての役割が優先ですので人が通れる幅をあけておくようにしましょう。

敢えて問う、ライブ写真撮影に「向いている」会場とは?(どちらかというと演者さん向け)

この「向いている」とは、撮りやすい、という意味もそうですが、特に、他のお客さんに迷惑をかけずに撮りやすい、という意味でとらえて欲しいと思います。

前後方向が短くて、後方に通路が確保されている会場が向いていると言えます。

時々「狭い会場は迷惑がかかりやすい、広い会場ならOK」と判断して指示される演者さんがいらっしゃるようですが、それは違います。

広い会場、特に前後方向が長い会場は撮影者が前に行かざるを得なくなるので、それだけ他のお客さんに迷惑をかけるリスクは高まります。

カメラから出る光はフラッシュだけではありません。

演奏の邪魔になるし、他のお客さんにも迷惑がかかるのでフラッシュは絶対に使ってはいけません。まず、止める方法を学んでください。

フラッシュだけではありません。AF補助光と呼ばれる光が出てくるカメラがあります。これも設定で止められます。ライブを撮ろうとする前に、設定は徹底的に見直しましょう。

シャッター音の問題

(この章、2020年5月31日更新)

一眼レフを使用していると付きまとうのがシャッター音の問題です。特に弾き語りのライブではシャッター音が演奏の音に勝ってしまいがちです。下記の方法を選択しましょう。

逆にロックバンドのような大音量のライブではこの辺は余り気にしなくてもよさそうです。

ただ、ここ数年、レンズ交換式のミラーレスカメラが普及してきたことで、この問題に対する見方がだいぶ変わってきました。

ミラーレスを使えるなら、電子シャッターで撮りましょう。

ミラーレスカメラの場合、電子シャッターなら人の耳に聞こえるレベルの音を出さずに撮ることが出来ます。ミラーレスのカメラをお持ちなら、弾き語りライブではこれ一択です。

設定方法はカメラにより異なります。「電子シャッター」「メカシャッター」を選択するようになっているカメラもあれば、「静音モード」となっているカメラもあります。

一つだけ注意が必要で、電子シャッターは1/100秒よりも速いシャッタースピードの場合、動きの速い被写体が歪んで写ってしまう問題があります。基本的に弾き語りでこれに該当する状況はないと思いますが、ロックバンドの場合はメカシャッターに切り替えましょう。メカシャッターはシャッター音が少し鳴ってしまいますが、よっぽど静かじゃないと気にならないレベルです。ロックバンドなら全く問題になりません。

一眼レフを使わざるを得ない場合、静音モード及びカバーを使用する。

それでも全員がミラーレスカメラを持っているわけではないですし、ミラーレスではない一眼レフを使わざるを得ない場合もあるでしょう。

最近の一眼レフカメラに装備されている静音モード(EOSシリーズの場合、ドライブ設定で「S」と表示されるモード)を使用することで、ある程度、シャッター音を抑えられます。

不安な場合はカバーを使用するといいでしょう。ベルボンさんのレインカバーあたりは操作性も良くてお勧めです。

このような対策を施した場合でも、バラード系の曲、曲途中の静かな場面、曲終了直後の余韻などはレリーズを控えましょう。

携帯電話、スマートフォンなど

携帯電話等のカメラ機能は、防犯上の理由からシャッター音(電子音)を消すことが出来ません。よって、ライブでは使用するべきではありません。

露出補正

ここからやっと技術的な話です。

特に暗いライブ会場では初期設定では顔が白く飛んでしまうことが多くなります。周りの暗さ、衣装の色なども考慮して、露出を大体1/3段~1段程度マイナスにすると顔が程よい色に写ります。

逆にバックの照明が強すぎる場合は全身が真っ暗に写ってしまうので、程度に応じて+1段~+2段程度に設定します。

シャッタースピード

ISOが1600~3200程度だと、自ずとシャッタースピードも1/30秒程度に制限されてしまうことも多いのですが、カメラがより高感度になった今では、ギターやピアノを弾く人の場合は1/80~1/100秒程度に設定することが多いです。速い曲だと手がうまいことぶれます。ただ、顔も動く人だと顔がぶれてしまっては意味がないので、そこら辺はバランスで考えましょう。

手ブレ、ダメ、絶対

ライブ会場のような厳しい環境では、手ブレはかなりの確率で発生します。手ブレ補正機能を使っていても発生します。演出上の意図があるものを除き、手ブレした写真に商品価値はありませんし、演者さんに提供するべきではありません。大きくして使わないからいいや、と思っても、そういうのは必ず後からバレます。

手ブレしていないかどうかは、提供画像を選ぶ際に必ず確認しましょう。等倍拡大してマイクの網の目を見ればわかります。

最後に、ライブ撮影しようとする方へ

ライブ撮影は、あくまで、人さまの表現にお邪魔して、その一部を切り取らせてもらう行為です。撮影に演者さん都合による目的がある場合(明確な写真使用予定がある、など)を除き、写真を撮る側の都合で演出に口を出すことは絶対に許されません。あくまで、あるがままを写す作業です。都合悪い部分は自分の腕なり機材なりでカバーする、という気持ちで臨んでください。

最後に、演者さんへ

ライブ写真は、ここに述べたように、簡単なようですごく難しいものです。特にここに述べたことまで考慮してプロカメラマンを教育してくれる専門教育機関もないのではないかと思います。

つまり、お客さんに迷惑をかけずに相応のライブ写真を撮れるようになるには、現場で場数を踏む必要があるんです。いくら他のジャンルで写真を撮り慣れてるカメラマンだからといって、いきなりライブ写真を依頼してうまく撮れるものではありません。

何が言いたいかというと、ご自身に差支えがなければ、志のある人がライブ撮影許可を申し出てこられた場合には、出来るだけ門戸を広げておいてほしいんです。

やみくもに撮影禁止ばかり言っていると、本当に必要な時にちゃんと撮れる人が育ちません。最近よく耳にする「オフィシャルカメラマンの方がよっぽどマナーがなってない」という話はそういうことが原因になっていると思うのです。オフィシャルの人は、いきなりオフィシャルになるわけじゃないんですよ。アマチュアとしての経験を経て、オフィシャルになれるわけです。ライブ撮影の経験は、ライブ撮影でしか積めないんです。

門戸を広げた上で、マナー、腕を身に付けられるよう教育し、経験を積んでもらう。これが必要なことだと思っています。専門の教育機関が存在しない以上、我々経験者の間でやっていくしかないと思っています。もちろん私も可能な限り協力します。